1.火山の基礎知識

火山は海溝と平行に列をなして分布する

約200万年前から現在まで、日本列島に生まれた火山は350ほどあるといわれています。しかし、それらの火山は全国にまんべんなく分布しているわけではありません。北海道から中部・関東地方にかけて火山がたくさんありますが、近畿地方や四国にはほとんどありません。これはなぜでしょうか?
地球の表面はいくつものプレート(岩板)でおおわれています(図1)。日本は4つのプレートが接する場所にあり、太平洋プレートは日本列島の東側で千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝の下に沈み込んでいます。またフィリピン海プレートは相模トラフ(トラフとは、海溝よりもやや浅い海底の窪みのこと)と駿河・南海トラフで日本列島の下に沈み込んでいます。沈み込んだプレートからしみ出した水は、まわりのマントルの融点を下げて溶かし、マグマが発生します(図2)。このマグマは徐々に上昇し、地表に達したところで火山弧とよばれる火山の連なりを作ります。
このため、火山は海溝やトラフに平行に連なって存在することになり、日本列島では、北海道から東北地方を通り、浅間山付近で南に折れて八ヶ岳、富士山、伊豆七島へ続く火山弧と、九州を南北に貫いて山陰にいたる火山弧が形成されたのです。

富士山は生きている

日本の陸上で最大の山体をもつ火山、富士山は活火山です。
活火山は、かつては「過去およそ2000年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動がある火山」と定義されていましたが、平成14年(2002年)に「おおむね過去1万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山」と改められました。「有史以来の噴火記録がなくても、今後噴火する可能性のある火山」が含まれているということになります。
ちなみに、かつて富士山は「休火山」に含められていたこともありますが、現在は「休火山」という分類は用いられていません。
富士山は宝永4年(1707年)に起きた大噴火を最後に、ここ300年ほどは噴火していませんが、それ以前には頻繁に噴火を繰り返した時代がありました。
火山の一生の長さは数十万年から数百万年と言われています。たとえ数百年噴火していなくても、それはほんの「一休み」に過ぎません。近年、富士山周辺では地下のマグマの働きによると思われる小規模な地震がしばしば観測されています。こうしたことから、富士山もいつかは噴火するとみられています。

富士山が「不二」の山であるわけ

富士山は、いろいろな点で日本にある他の火山と大きく異なる特徴を持っています。
まず、日本列島の陸上で最大の他に類を見ない美しい山体をもつことがあげられます。また、日本の火山のほとんどが安山岩マグマを多く噴出しているのに対し、富士山は玄武岩マグマばかり噴出しています。10万年以上にわたってほぼ玄武岩だけをこれほど大量に噴出している火山はほかにありません。
側火山が非常に多いことも富士山の特徴です。数が多いだけでなく、その分布がこれほど広範囲にわたる火山も、日本には他に例を見ません。まさに富士山は、他に二つとない「不二」の山なのです。
こうした特徴は、富士山のある場所に大きく関係しています。富士山の真下には沈み込んだフィリピン海プレートが横たわっていますが、このフィリピン海プレートは伊豆半島の東側では相模トラフに沈み込みながら全体的に北西方向に移動する一方で、伊豆半島の西側では駿河トラフに沈み込みながら西方向に移動しています。このため富士山の地下では、フィリピン海プレートが両方向から引っ張られて裂けているのです。その結果、この裂け目から地下深部の玄武岩マグマが容易に上昇するため、富士山は大量の玄武岩マグマを噴出する大きな火山になったと考えられています。

火山が噴火すると・・・

火山は、美しい景観や温泉の湧出などで人々に多大な恵みをもたらしていますが、ひとたび噴火すると大きなエネルギーを放出し、被害は広範囲におよびます。
火山の噴火に伴って生じるおもな現象としては、次のようなものがあります。

溶岩流

溶融状態の岩石が地表に流れ出したものが溶岩流です。1000℃前後という高温のため、山林や耕地、建物や道路などすべてを焼き払い、埋めつくしてしまいます。また冷えて固まった溶岩流は取り除くのが困難で、農地などは使えなくなってしまいます。富士山では平安時代の貞観噴火(864年)の際に、大規模な溶岩流が発生しました。

火砕流

火山ガス、火山灰、軽石・岩片などが一体となって斜面を流れ落ちるのが火砕流です。数百℃の高温に加え、時速100km以上も稀ではないという高速のため避難が難しく、火山現象の中でも最も危険なものの一つです。平成3年(1991年)に長崎県雲仙普賢岳の噴火で発生した火砕流では、一度に43人が亡くなっています。なお、火砕流よりさらに気体の割合が多いものを火砕サージといいます。

噴石

噴火に伴って空中に噴き出される岩石のうち、直径数cm以上の大きめのものを噴石と呼びます。直径10cmを越える大きな噴石の到達距離は火口から通常4km以内にとどまりますが、噴火のタイプや火口上空の風速によっては直径数センチの火山岩片や軽石が火口から10kmを超える地域まで落下することがあり、その直撃による死傷者や建物被害を発生させることがあります。

火山れき・火山灰

噴火に伴って空中に噴き出される岩石のうち、直径2mm~64mmのものを火山れき、直径2mm以下の粒子を火山灰と呼びます。火山れき・火山灰は風に乗って広い範囲に運ばれ、農作物に被害を与えたり、陸や空の交通に大きな影響を及ぼしたりします。また、細かな火山灰はコンピュータなど精密機械に入り込んで機器を故障させる場合もあるため、交通・通信・経済・産業などあらゆる分野で機能麻痺が生じるおそれもあります。さらに火山れき・火山灰が厚さ10mm以上降り積もった地域では、雨によって洪水や土石流が発生する恐れがあります。なお、火山れきのうちで暗色・多孔質のものをスコリア、明色・多孔質のものを軽石と呼びます。
また、噴石・火山れき・火山灰を総称して「火砕物」と呼ぶことがあります。

火山ガス

多くの火山では、火口以外の山腹や山麓にも噴気活動が見られる場合があり、火山ガスが噴出しています。火山ガスには硫化水素、二酸化イオウ、塩化水素、二酸化炭素などの有害物質が含まれるため、それを吸った人や家畜に被害が出た例もあります。伊豆七島の三宅島でも、今なお火口からの大量の火山ガス放出が島民の生活に影響を与えています。

山体崩壊

火山噴火やそれにともなう地震・地殻変動が引き金となって、火山の山体の一部が一気に崩れ落ちる現象です。その際に発生する大量の土砂の流れ下る現象を、岩屑(がんせつ)なだれと呼びます。山体崩壊は、大規模な地すべりとともに高速の爆風を伴うこともあり、きわめて危険な火山現象です。雲仙岳噴火(1792年)、磐梯山噴火(1888年)などで発生しています。

泥流・土石流・火山性津波

火砕流が積もっていた雪を溶かしたり、火山灰が堆積しているところに雨が降ったりして、泥流や土石流が発生することがあります。噴火で崩壊した土砂が海に流れ込み、津波を発生させた事例もあります。これらは直接的な噴火現象ではありませんが、二次的災害として大きな被害をもたらすことがあります。