7.富士山の恵みと人々の暮らし

火山の一生、人の一生

火山はいったん噴火を始めると、恐ろしい災害をもたらし、生命や財産を奪うなど人々の生活に大きな影響を及ぼします。しかし、数十万年にもわたる火山の営みの中で、災害と恵みはつねに表裏一体の関係にあるのです。長い目で見れば、火山は人間に豊かな、他に代えがたい恵みをもたらしてくれます。
人々は火山の噴火を恐れ、噴火災害に大きな衝撃を受けますが、それは火山の長い一生にくらべて人間の一生がはるかに短いという、両者の寿命の大差にも一因があるのです。
火山の一生の長さに思いをはせ、万一の噴火に備えて十分な対策を施しておけば、火山山麓に住む人々や、そこを訪れた観光客は、将来にわたって安心して火山の恵みを受けとっていくことができるでしょう。

はかり知れない「火山の恵み」

富士山は、過去に噴火を繰り返して成長してきたからこそ、日本一の標高と世界に知られた美しい山容を誇っています。こうした「火山の恵み」は富士山の山容だけにとどまりません。山麓に散在する湖や湧水、樹海、溶岩トンネルなどの火山特有の自然は、住民にとって心のよりどころや郷土学習の題材であるばかりでなく、訪れる人々に楽しみと憩いをもたらす貴重な観光資源ともなっています。また、広大な山麓と平野、肥沃な土壌、豊富な地下水や鉱産資源などは、農業や牧畜、工業を発達させ、人々の暮らしを支えているのです。

溶岩が生み出す富士山の”おいしい水”

富士山を囲むようにしてあちこちからわき出す湧水は、優れた水質と豊かな水量に恵まれ、古来人々の暮らしを潤してきました。現在は、飲料水や生活用水はもちろん、工業用水、養鱒場・ワサビ田・水田などの用水に使われ、さらには街の景観づくりや観光資源としても重要な役割を果たしています。この富士山の湧水は、どのようにして生み出されるのでしょうか。
広大な富士山に降った雨や雪解け水はそのまま地下に浸透します。富士山の溶岩流の多くは、表面と下底は流れる際に冷えて割れるためすき間が多く、よく水を透します。これに対し、溶岩流の中心部はゆっくり冷えて緻密に固まるので、水を透しにくい性質があります。富士山では、このような溶岩の層が幾層も重なっており、地表からしみ込んだ水はその間に入り込み、高低差による上からの水圧で押し出され、断面や末端で湧き出すと考えられています。
富士山の湧水は、1日の総湧水量約500万m3と推定されています。降雨後ふもとに達するまで早くて約70日、長ければ100年以上、平均15年前後かかるといわれています。

優美な山体の秘密

世界に冠たる富士山の大きく美しい円錐形の山体も、火山の恵みの一つです。これは、山頂付近から流れ下った溶岩流の層が一枚一枚積み重なることによってできたものです。現在の富士山の表面は最後に積み重なった溶岩流や火砕物の上面にあたります。
火山が噴火をやめると山体の侵食が始まり、谷が刻まれ、険しい地形が形づくられていきます。しかし、富士山の場合は、浸食によって谷が刻まれても、あまり間をおかずに噴火による土砂によって埋められてしまうので、つねに表面はなめらかなままなのです。

農業用水確保のための人工湖

 朝霧高原の一角に位置する田貫湖は、もともと「狸沼」と呼ばれる天然の小さな沼地で、排水路を設けても地下水位が高いため田畑に引くことは難しく、周辺の用水源は富士山からの湧水が集まる芝川でした。
 しかし関東大震災の影響で、芝川の流水量が激減したことから、昭和9年に県営用水幹線改良工事として狸沼を貯水池に作りかえるための調査を行い、昭和11年には貯水量706,000m3の人工湖が完成、その後も数回にわたり工事をおこない、貯水量1,200,000m3の現在の姿となりました。
 現在の田貫湖は農業用水等にくわえて、恵まれた自然環境のなかでのキャンプ、ボート遊び、ハイキング等に最適な行楽地として親しまれています。

火山独特の造形を遊び・学ぶ

山麓では、たくさんの美しく珍しい「火山の造形」を見出すことができます。溶岩樹形や「風穴」「氷穴」などと呼ばれる溶岩トンネルをはじめ、富士山の東麓には、噴火によって降り積もった火山灰が層をなしている美しい崖が散在しています。こうした「火山の造形」は富士山の生きた歴史であり、自然のつくり出す芸術なのです。