6.火山観測と噴火予知・防災

噴火の兆候? 低周波地震の活発化

平成12年(2000年)10月頃から翌年5月まで、富士山地下10~20?を震源とする低周波地震が一時的に急増し、注目を集めました。低周波地震は通常の地震よりもゆっくりと揺れる地震で、火山の地下で発生する例が多く知られています。富士山で観測されたような震源の深い低周波地震については、発生のメカニズムはまだ解明されていないものの、地下のマグマの活動と関係があると考えられています。
分析の結果、このときの低周波地震の急増はただちに噴火など活発な火山活動に結びつくものではないとされましたが、富士山が活火山であることを広く再認識させ、観測の強化、ハザードマップ作成の動きなどにつながりました。

マグマの動きからさぐる噴火の前兆

火山の噴火は地下のマグマだまりからマグマが上昇し、地表に達することで発生します。地表に噴火の兆候がなくても、地下のマグマの動きがとらえられれば、噴火の危険性をある程度予知することができます。マグマの上昇にともなう現象の代表的なものとして、以下の三つがあります。

群発地震

マグマが岩盤を押し分けて上昇すると、その通り道の周囲の岩盤に力がかかり、岩盤が破壊されて地震が連続的に発生します。観測には地震計が使われます。

火山性微動

マグマが岩盤中を上昇し、浅いところに達すると、連続的な震動が発生します。マグマが浅部まで上昇してきたことを示し、観測には地震計が使われます。

地殻変動

マグマが岩盤を上昇すると、周囲の岩盤が変形し、山体が膨らむなどの異常が起こります。傾斜計やひずみ計、GPSによって観測できます。
以上に加え、重力、地磁気、電気抵抗、地表温度、火山ガスなども重要な観測項目に数えられ、噴火の予知には、たくさんの観測を組み合わせることが求められます。

噴火余地の現状と将来

 噴火に先立つマグマの移動にともなって生じる異常現象を観測することにより、噴火の可能性が高まっているかどうかを、ある程度事前に知ることができるようになってきました。しかし、噴火の規模・仕方・推移を事前に予測することはまだまだ困難です。今後は火口位置の予測範囲を時間とともに的確に絞っていけるよう、現在も研究が続けられています。

さまざまな機関が連携した富士山の火山観測体制

 広大な富士山では、防災科学技術研究所、気象庁、国土地理院、産業技術総合研究所、東京大学地震研究所など多くの機関が噴火予知のための観測・研究を行っています。
 富士山頂には、国土地理院のGPSの電子基準点が設けられ、人工衛星から電波を受信して地殻変動による位置変化を探知しています。また、山頂から約10?の東西南北の6カ所には、防災科学技術研究所の火山観測地点が設けられ、地震計と傾斜計から得られた計測データが茨城県つくば市の研究所へ送信されているほか、関係機関が観測機器の設置を進めています。
 火山の監視については、多角的なデータを組み合わせて評価することが大切です。そのため、噴火予知のために設置された観測機器のほか、国土交通省や自治体などが地震対策などの目的で富士山周辺に設置している地震計やその他の観測装置との観測データの共有化・集約化が図られています。

噴火警報と噴火警戒レベル

 噴火警戒レベルや噴火予報・警報という言葉を、おそらく聞き慣れない人が多いと思います。それもそのはず、この2つの情報は2007年12月から全国の主要な活火山に対して発表されるようになったばかりの、新しい情報なのです。これらの情報を業務として出しているのが気象庁です。
 噴火警戒レベルは、その火山が現在どのくらい危険な状態であるかをレベル1~5の5段階の数字で表すものであり、観測・防災体制の整備が進んでいる特定の活火山(2008年8月時点で富士山を含む19火山)に対して常に表示されることになって います。
 気象庁が出す情報としては、噴火警戒レベルのほかに噴火予報・警報があります。噴火予報・警報は、火山活動によって火口周辺や居住地域に被害が予想される場合に発表される情報であり、噴火警戒レベルが発表される火山はもちろん、噴火警戒レベルが導入されていない火山に対しても発表されることになっています。

富士山周辺での火山防災への取組

富士火山防災の一翼をになう富士砂防事務所と静岡大学防災総合センター

 国土交通省の富士砂防事務所は、静岡県、山梨県と連携して火砕流、溶岩流などの火山活動に伴う災害を防ぐための調査・検討を実施しています。また、火山砂防計画の検討、観測システムの整備、 関係機関との連携、リアルタイムハザードマップの検討等のより一層の充実にも取り組んでいます。静岡大学防災総合センターは、富士山の火山災害の基礎研究と防災教育、ならびに大学のもつ知的資産を地域の防災に生かすための地域連携に取り組んでいます。これまで富士山火山砂防計画検討委員会等の委員や、各種火山防災講演会・防災訓練や教員研修等の講師として多くのスタッフを派遣し、富士山の火山防災の充実に取り組んでいます。

県境を越えた火山防災をめざして

 富士山ハザードマップの作成を一つの契機とし、富士山の防災対策のさらなる充実を目的として、平成17年(2005年)、静岡・山梨両県の17市町村によって「環富士山火山防災連絡会」が設立されました。当連絡会は、「県境を越え、美しい富士はただひとつ」を合言葉に、行政機関・学識経験者・住民一体の、広域連携による富士火山防災をめざしています。